〈資料〉 2008年6月19日 李明博大統領特別記者会見

 

           尊敬する国民の皆様。
去る6月10日、光化門一帯がろうそくの明かりで明るくなったその夜、私が大統領府後方の山に登り、終わりなく続くろうそくの明かりを眺めました。デモ隊の叫び声とともに、私が以前から好んで歌っていた「朝露」の歌声も耳にしました。
真っ暗な山腹に一人座り、市街地をいっぱいに埋め尽くしたろうそくの明かりの行列を見ながら、国民を安らかに迎えることもできない自分自身を叱責しました。深夜まで考えて、また考えました。事をなすこともできない自分自身を顧みました。
私は、最近、各界各層の指導者の皆さんとお会いし、お話をお聞きする機会を持ちました。その方々は、このように忠告しました。「一人で悩まずに、国民に打ち明けて理解を求めなさい」と。
私が、今日、この場所に立ったことは、その方々のお言葉の通り、国民に巷の事情を率直にご説明申し上げ、理解を求めるためです。そして、今後の国政の運営方向をお話しし、新しい出発に念を押そうと思います。
顧みれば、大統領に当選した後、私は気が短かったように思います。歴代政権の経験と照らし合わせて見るとき、就任1年以内に変化と改革を成し遂げなければ成功できないと考えました。さらに、私が就任したときと前後して、世界経済の条件は急速に悪化していきました。国際金融危機と相まって、原油価格と原資材価格も急騰しました。
このような困難を克服して、先進国へ跳躍するためには、私たちの経済競争力を高めることが至急の課題でした。韓米FTA批准こそ成長潜在力を高める近道の一つと判断しました。米国産牛肉の輸入をこのまま拒否すれば、韓米FTAが年内に処理される可能性はほとんどないと思いました。米国との経済摩擦も予想されました。好きでも嫌いでも、牛肉交渉は避けられないと考えました。
韓米FTAが締結されれば、34万人の雇用を新しく確保でき、GDPも10年間で6%以上増えることが予想されます。大統領として、こうした絶好の機会を逃したくありませんでした。何の努力もせずに、機会の門が閉じられることを、そのまま眺めていることはできませんでした。
わが国は、四大強国に囲まれた世界唯一の分断国家です。その上、北朝鮮の核の危機を頭の上に載せています。安保の側面でも、米国との関係回復をさらに遅らせることはできませんでした。そのように考えたとき、食卓の安全に対する国民の要求を几帳面に推し量ることができませんでした。自分自身よりも、子供の健康を一層心配するお母さんの心を細心の注意を持って見回すことができませんでした。
いくら早急に解決しなければならない国家的懸案であっても、国民が結果をどのように受け入れるのか、また国民が何を望むのかを取りまとめて見ていなければなりませんでした。私と政府は、この点に対して骨身にしみた反省をしています。
政府は、今すべての外交力を動員して、最善の努力を行っています。国際標準と衝突せずに、通商摩擦をおこさず、食品の安全に対する国民の心配を解消するためです。
私は、米国のブッシュ大統領に私たちの要求事項を具体的かつ明確に明らかにしました。これを契機に、今、このときも、両国の代表らが集まり、交渉を行っています。国民が願わない限り、30カ月齢以上の米国産牛肉が私たちの食卓に上がることがけっしてないようになるでしょう。米国政府の確固たる保障を取り付けます。米国も、同盟国の国民の意思を尊重することと期待しています。
政府は、今回のことを契機に、すべての食品の安全性を担保するために、徹底した措置をとるようにいたします。
尊敬する国民の皆様。
この間、国民の皆様は米国との再協議を要求しました。一方、政府は再協議の困難さだけを説明しようとしました。こういう態度が、国民の皆様には国民の意志に従わない政府と映ったようです。
こうした国民の要求が大きくなって、野党はもちろん、与党内でも、「ひとまず再協議の要求を受け入れよう」という話が出てきました。「通商摩擦や国益を損なっても、直ちにこの事態を沈静化させなければならない」と話しました。
国内問題ならば、おっしゃるとおりにしたことでしょう。私の政治的立場だけを考慮すれば、躊躇せずに受け入れたことでしょう。私が「再協議する」と宣言すれば、当分は困難を免れることもできたでしょう。そのことで私自身、多くの葛藤をしたことも事実です。
大統領の国政支持度が急激に落ち、あらゆる非難が聞こえてくるにも関わらず、私が何のために我を張り続けるでしょうか。しかし、私は大統領として、国益を守り、未来を考えないわけにはいきませんでした。途方もない後遺症があることを明確にわかりながら、そのようにすることはできませんでした。
国民の皆様は、2000年に行われたニンニク激動を記憶されているはずです。中国産ニンニクが大挙入ってきながら、国産ニンニクの価格が暴落し、政府は世論との宥和を図るため、緊急関税を賦課しました。すると中国は、韓国製携帯電話の輸入を中断させました。結局、この問題は、韓国が一方的に譲歩することで終わりました。
油一滴も出ず、立派な資源さえないわが国が生き残る道は通商しかありません。わが国経済の通商依存度は70%を超えています。通商大国日本が20%台という点を考慮すれば、非常に高い数字です。そのようなわが国が、国際社会で信頼まで失えば未来がありません。だからこそ、国民の健康権を守りながら、経済に悪影響を及ぼさない方法で政府は追加交渉を選択したのです。国民の皆様が、このような事情を深く理解してくださることを願っています。
尊敬する国民の皆様。
私は就任2カ月で起こった今回のことを通して得た教訓を、在任期間中、常に再確認しながら国政に臨みます。国民と意思疎通しながら、国民とともに歩きます。国民の意思を敬います。反対意見に耳を傾けます。
大統領府秘書陣は、新たな気持ちで大幅改編します。内閣も改編します。当初の人事に対する国民の痛い指摘を謙虚に受け入れ、国民の目の高さに適った人選に最善を尽くします。
大統領選の公約だった大運河事業も、国民が反対するならば推進いたしません。どのような政策も、民心とともにしてこそ成功できるということを、今一度、切実に感じました。
尊敬する国民の皆様。
国際的な経済条件が非常に厳しくなっています。原資材、穀物価格は途方もなく急騰し、国際原油価格は昨年よりも2倍も上がりました。これからは、もっと上がるという憂慮の念が強い予測もあります。そうなれば、世界経済が危機に瀕することになるでしょう。私たちも、そうした危機から自由ではありません。これに対する対応を、今から徹底的に準備しなければなりません。
今、国内でもオイル価格引き上げによる生計型ストライキで物流が途切れ、工場の稼働が停止する事態が起きています。生存権を守るための行動に乗り出した勤労者を無条件に恨むことはできないことです。しかし、ストライキが長期化し、経済に決定的打撃を与えるならば、その被害は勤労者を含む国民すべてに、そっくり返ってきます。今は、企業も政府も勤労者も、皆、一歩ずつ譲歩して苦痛を分かち合わなければならないときです。
私たちは、すでに70年代のオイルショックと90年代の金融危機など、何回もの危機を国民すべてが力を合わせて、立派に克服した経験を持っています。今回のことも、互いに苦痛を分かち合いながら、手を握って協力すれば、世界のどの国よりもはるかに早くこの危機を克服できます。
経済状況が悪くなれば、最も苦痛受けるのは庶民です。物価を安定させ、庶民の暮らしを見回すことを国政の最優先課題とします。必ず、経済を生かします。国内外の企業が安心して投資できる環境をつくり、良い雇用先をたくさんつくりだします。
公企業の先進化、規制改革、教育制度の改善など、先進国へ跳躍するために、必ずすべきことは徹底的に準備して、躓くことなく推進していきます。
もう、新しく始めなければならない時間です。恐ろしい気持ちで謙虚に、また国民の皆様に近づきます。国民の皆様も新しく出発する私と政府を信じ、見守ってくださるようお願い申し上げます。ろうそくの明かりで覆い被さった通りが、希望の光があふれるようにします。ありがとうございます。